宮永和夫(みやながかずお)さん(54) 彩星(ほし)の会顧問 群馬県こころの健康センター所長
「認知症を65歳以上に特有の病と思い込むのは間違い。若い患者さんが病気と共に生きていくための社会の受け皿作りを進めたい」
“壊れそうな家族”励ます
若年認知症家族会のメンバーと話し合う宮永さん(東京都内で)=工藤菜穂撮影 若年性認知症治療の草分けとして知られる精神科医。患者に向き合うのと同じくらいのエネルギーを、患者を支える家族の支援に注いでいる。
「認知症は働き盛りの40、50代でも、それより若くても発症するし、若い場合は失業、子育てなど高齢者とは違った悩みを抱えている。それなのに社会の理解は低く、対策もほぼゼロに等しい。ましてや苦労している家族への支援はない」
設立に奔走した家族会「彩星の会」の会合では、「聞き手のこちらが泣きたくなるような」切実な悩みや訴えが堰(せき)を切ったように語られる。認知症と診断されて3日間泣き通した現役サラリーマンの夫から、『君は世界で一番不幸な女性だね』と言われた妻は、『意識がはっきりしている時に、夫婦で過ごす時間をもっと作っておけばよかった』としみじみ語った……。
「若年の認知症への理解を深め、患者さんや家族が、これからの人生を、病気と共生しながら社会の中で普通に暮らせるようにしたい、それがわれわれサポーターの願いです」
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群馬大医学部時代の1991年度と92年度に、群馬県が実施した認知症患者の県内調査に参加。そこで初めて65歳未満の患者がいることを知った。
「夫や妻が壊れていく姿を見るだけでもつらいのに、『あなたと結婚したからこうなった』などと周囲に言われ、うつ病やアルコール依存症になってしまう家族もいる。実情を知れば知るほど、何とかしなきゃ、と思いましたね」
折しも、高齢化がクローズアップされ、高齢者向けの予算やサービスはどんどん増えていくのに、「高齢者以外は、受け入れ先が精神病院しかなく、生活保障もほとんどない」。
当時の厚生省に掛け合ったところ、「実態がわからないと対策が立てられない」と言われた。そこで、96年度に国の補助事業で調査を実施した。その結果、全国に少なくとも約2万6000人(18~64歳)の患者がいることがわかった。
若年対策の必要性は認識されたが、政策にはなかなか結びつかない。2000年にスタートした介護保険でも、40~64歳の「老化に伴う認知症」だけは保険給付に含まれたものの、認知症になった原因が栄養障害、頭部外傷などの場合は対象外だ。39歳以下は、原因を問わずカバーされない。
「これは家族を中心に声を上げていくしかない」と、知り合いの医師や看護師、ソーシャルワーカー、作業療法士らに呼びかけ、2001年に家族会を設立した。会の名前には、「再生」の意味も込めた。
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会では現在、2か月に1回の定例会と個別相談、週1回の電話相談のほか、年1回の旅行も行っている。昨年からは、若年専用のミニデイサービス「スタープラス」を月1回、東京都内で始めた。今後は、若年の介護ができるヘルパー養成のための教材開発や、職場を離れた患者が再度、働けるような雇用の場づくりにも取り組む予定だ。
興奮と暴力が特徴とされる若年の患者は、高齢者が多い施設からは拒否されがち。その点、イギリス、オランダ、スウェーデンなどには、若年専用の入居・通所施設があるという。
「そうした施設を全国各地に広めたい。同時に、街なかにある喫茶店やスポーツクラブなどに通えるようになればもっといい。そのためにも、社会の理解を深めることが不可欠です」(猪熊律子)
若年性認知症 65歳以降の認知症を「老人性認知症」と呼ぶのに対し、65歳未満で発症した場合を呼ぶ。記憶・言語障害などを引き起こす原因となる主な病気は、アルツハイマー病と脳血管性障害。脳の前頭葉が委縮するピック病や、アルコール性は若年に多い。患者数について、現在では10万人前後との見方もある。
☆若年認知症家族会・彩星の会の連絡先は、(電)03・3403・9050。ホームページは
http://www009.upp.so-net.ne.jp/fumipako/
☆ほかに、「朱雀の会若年認知症家族会」((電)0742・47・4432=奈良県)、「若年認知症者支援の会愛都(アート)の会」((電)090・3658・3594=大阪府)などがある。
(2005年7月26日 読売新聞)